ランタンで有名な台湾の観光スポット シーフェン
友人と2人で台湾を旅行した時、台北からシーフェン(十分)という町へ行くことがあった。シーフェンは有名な観光スポットの一つで、線路のすぐ両脇に店が並び、店のひさしに当たりそうになりながら黄色い電車が通る風景は観光ガイドブックでもよく見かける。
電車が通らない時間は、線路上でランタンを飛ばすというアクティビティがあり、観光客に人気だ。骨組みに紙が貼られたランタンに願いごとを書き、下部の中央に設置された燃料に火を付けて気球の要領で空へ飛ばすと願いが叶うと言われている。日本ではなかなかできない体験に心惹かれ、今回の旅行で楽しみなイベントのひとつだった。
台北からシーフェンまでの道のりは少し遠い。事前にガイドブックやブログで調べたところによると、いくつかアクセスの方法がある中でコスパが良いのが電車とバスの利用だと分かった。まず、台北から電車で30分かけてムーヂャー(木柵)駅まで行く。そして、駅近くのバス停からシーフェン行きのバスに1時間近く乗車する。移動は面倒だが、あのガイドブックでよく見る風景の中、自分たちもランタンを上げられるなら容易いものだと思った。
シーフェン行きのバス停にて
いよいよシーフェンへ向かうこの日は、バスが来る15分前にムーヂャー駅に到着した。駅から少し歩くとメインストリートに着いた。都市と都市をつなぐ道路なのか、車通りは激しい。しかし周りを見渡せば山が見えるほどの小さい町だった。当然ブランドショップは無く、地元の方しか使わないような商店が並ぶ通りだった。
町を歩く人もまばらで活気があるわけではないのだが、一箇所だけ人の行列が出来ていた。その30人は超える列に近づいてみると、先頭にはバス停があった。シーフェン行きのバスの番号が書かれており、これが私たちの利用するバス停だった。ここに並んでいる全員がシーフェンへ行く観光客のようだった。
ここに来るのは一般的な市バスなので、この人数を一度に乗せられるとは到底思えない。しかも、バスは40分に1本しか来ない。この日のスケジュールはタイトで、次のバスに乗れないとシーフェンでランタン上げをする時間が無くなってしまう。それどころか、このまま並んでいていたら次の次のバスに乗れるかどうかも分からず、予定が狂うのは確実だった。友人も、私も気持ちが萎えてしまった。
前方に並ぶ学生のグループは地面に座り、お菓子を広げて談笑していた。すっかり腰を落ち着けている様相やお菓子の減り具合から考えるに、前のバスにも乗ることができず、かれこれ1時間は待っているように見えた。私たちもこのグループに習ってお茶会をすることもできるが、ランタンを諦めてまでこんなバス停に居座ろうなんて気はさらさら無い。
行列を回避したい
どうしようかと思いながらしばらくぼーっと立っていた。駅前から乗るので、てっきりバスターミナルでもあり、そこを始発とするバスに乗るのかと思い込んでいた。そんなものは見当たらないので、これから乗るバスはいくつかのバス停を経由してここに来るのだろう。
おもむろにスマホで路線図を検索してみた。今私たちがいるバス停の前にもいくつか停車することが分かった。ひとつ前のバス停を地図アプリで検索してみると、ここからたった300 mの位置にあった。
このバス停に行けば並ぶことなくバスに乗れるかもしれない。期待が膨らんだ。それと同時に、ひとつ前のバス停に行くなんて誰でも思いつくはずだと考えた。しかも、こんなに近いところにバス停があるのだから、私たちと同じことを考えている人々で既に行列ができているかもしれないという不安も感じた。
時計を見ると、ちょうどバスの出発時刻だった。しかしバスはまだ来てない。少し遅れているのだろう。今からひとつ前のバス停へ行ったら、列の長さに関係なく乗り遅れるかもしれない。でも、ここにいたところで旅程が狂うのは確定している。なら行ってみようと、友人と意思を固めた。並んでいる他の人にも提案して一緒に行こうかとも思ったが、もし失敗したら相手に申し訳ないのでやめた。
不安と期待が入り混じる中、私たちは走り始めた。
目的のバス
乗りたいバスとすれ違わないこと、バス停に人がいないことを祈りながら2人で歩道を走った。やがて、バス停が見えた、と同時にバスが来るも見えた。走りながら思わず手を振った。バスは止まってくれた。幸いなことに、乗る人は私たち以外にいなかった。すでに座席は埋まっており、下手するとシーフェンまで1時間立ち続けることになるのだが、バスに乗れた嬉しさで全く気にならなかった。
バスは私たちが走ってきた道を戻るように進んだ。先程のバス停に到着すると、待ってましたとばかりに観光客がバスに押し寄せてきた。ついさっきまで並んでいた列をバス車内から見るのはなんだか不思議だった。
列のおよそ3分の1が乗車した時、まだ車内に余裕があるにもかかわらず運転手は半ば強引にドアを閉めた。おそらく、この先のバス停から乗る人のためにスペースを確保したのだろう。運転手の行動も分からなくはないが、限られた旅行期間にも関わらず長いことバスを待ち続けた観光客にとってはたまったものじゃない。バス停に取り残された人はみな唖然としていた。そこにはお茶会の面々もいた。バスは無慈悲にも走り出し、シーフェンへと向かった。
出来事を振り返って
ひとつ前のバス停から乗るというアイデアは「誰でも考えつくに違いない」と自分で思ってしまうほど単純なことだった。それに伴う行動も、ちょっと路線図を調べるだけ、たった300 m歩くだけ、という簡単なものだった。
しかし、実際に行動に移したのはバス停にいた30〜40人の中で私たち2人だけだった。そのおかげで、幸いにも目的のバスに乗ることができ、その後の旅行も予定通り楽しむことができた。ランタンも予定通り上げることができた。
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何気ないアイデアも、いざ行動に移そうとすると怖いものである。今回の話はとても些細なものではあったが、「行動してみるもんだなあ」と思える1つの成功体験となるものだった。
この経験から派生して、こんな記事も書いたので時間があれば是非。
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